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夜行列車メモリーズ
■「ブルートレインものがたり」 種村直樹 〜第4回 あさかぜブルーの誕生

「鉄道ジャーナル」1973年(昭48)7月号より

※以下、料金・名称・呼称・役職名などは原則として「鉄道ジャーナル」掲載当時のまま。ただし「注」は今回の掲載にあたり著者が加えたものです。

あさかぜブルーの誕生

 1955年ごろから、“動くホテル”をめざす星さんの夢はようやく具体化しだした。1957年の第1次5カ年計画スタートを前に、長距離旅客のサービス向上のため、全車冷房の近代的な列車をつくる基本線が確認されたのだ。時代は変わり、アメリカ人向けではなく、日本人の列車である。そして、東京−大阪間の昼間の特急は電車列車、九州特急は客車列車ときまった。客車列車は、星構想のとおり、固定編成客車とし、冷暖房の電源は電源車で一括制御することになった。

 営業局旅客課総括補佐だった柳井乃武夫さん(現・旅客局長〈注/現・日本交通協会理事長〉)は、雑誌『国鉄線』1957年9月号に「特急〈あさかぜ〉の新編成」と題し、夢ものがたりの形式で随筆を書いた。旅客サービス面から固定編成客車の設計に注文をつけていただけに、1年後に登場するブルートレインの姿を鮮やかに描いている。

『いつしか夢の中で、私は豪華な新編成列車〈あさかぜ号〉を前にして立っていた。……機関車の次位には見なれない車がある。電源車だ。そして、この電源車から最後部の車までは、まるで長い長い、ひとつの車のように、つながって見える。外国の鉄道雑誌などでみる最新型弾丸列車のような感じだ。それもそのはず、従来のように一車一車の客車を、いろいろに按配して連結して走る方式をはなれて、この〈あさかぜ〉の場合は、列車をひとつの単位と考え、客車はその構成部分として設計されている……』

『5両目は二等車である、窓からのぞいた私は思わず足を止めて声をのんだ。国際線就航の大型航空機そっくりである。前向きに2人ずつ行儀よく並んだリクライニングシートが2列。座席は新設計のもので、身体がすっぽりと埋まり……オーバーナイトバッグでも肩にかけて、この車に乗り込んだら、ちょっとした洋行気分が味わえそうな感じだ……』

 そして、車体の色にふれた最後の部分がおもしろい。

『そういえば、さっき見た〈あさかぜ号〉は何色に塗ってあっただろうか。なにぶんにも夢の中のことなので色ははっきりしない。蒸気区間を走るので、よごれの目立たないような、だが、その近代的な構成美にマッチした独特な色だったように思う……』

 つまり1957年夏の段階では、ブルートレインのブルーの色は、まだきまってなかったのだ。列車のイメージに直接つながる色合いは、きわめてむずかしく、電車特急の旧〈こだま〉と一緒に検討された。

〈あさかぜ〉と旧〈こだま〉のカラーを決断したのは故・磯崎叡営業局長(後の第6代国鉄総裁)と臨時車両設計事務所主任技師になっていた星さん、それに電通の専門家をまじえた会議だった。

「客車はブルーがよろしいでしょう。夜行で落ち着いて休んでいただくムードをもっています。ヨーロッパでも、国際急行クラスの客車はブルーが多く、アルミの銀色の窓枠が映えて、じつに美しかった。電車のほうは日光の色を象徴する赤を生かしましょう」

 星さんの頭の中で、ブルーの夢の列車は、そう軽やかに走っていた。

「いいじゃないの、ブルーで。その場合、アクセントに使うクリーム色の帯ねぇ、よほど考えなくちゃあ。ヘタすると昔の女学校のスカートみたいに、やぼったくなっちゃうからねぇ。せっかくスマートなボディなんだから……」と、磯崎さんも、こまかな心づかいをみせた。

 こうして、新しい特急時代の開幕を告げる“サン・サン・トウ”は刻々と近づいた。鉄道技術研究所車両性能研究室の古河寿之主任研究員(注/後の運転局車務課長)は車両完成前後の2週間、日本車輛の工場へ詰めきりだった、初めての電源車による集中制御方式がうまくゆくかどうか、二重窓で開閉する車両だけにクーラーの具合いが心配だったのだ。

 1958年(昭33)10月1日18時30分、ブルートレイン第1号の〈あさかぜ〉新編成は、発売と同時に満席になった客を載せ、客車では初めての自動ドアを静かに閉ざして、東京駅14番線ホームを離れた。視野の広い最後部の窓で、有名な列車ファンの鷹司平通夫妻(平通氏は故人)が、いつまでも手を振り続けた。

●「ブルートレインものがたり」は、直接取材のほか、つぎの資料を参考にしました。
『国鉄線』1957年(昭32)9月号、1958年(昭33)10・11・12月号/『国鉄通信』1966(昭41)8月22日号「ブルー・トレーンの歴史」など/『鉄道100景』上巻「動くホテル・ブルートレーン」/『列車年表』1972年(昭47)10月(国鉄本社列車課編)/『日本国有鉄道百年史年表』


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